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体高が三メートル以上ある先詠には、校舎の天井が低いようで、思うように身動きが取れないようだ。
ゆずるは体を乗り出してあたりを見渡そうとしたが、妖狼の体が邪魔でそれもかなわない。ここは自分たちの足で、次の空間へと続く、入口を探した方が早いかもしれない。
ゆずるは自分の考えを妖狼に伝えると、背から降りやすいようにと、妖狼が体を低くしてくれた。
「直、降りるぞ」
そう声をかけながら背後の直久を振り返る。直久は、目をぎゅっと閉じたまま、声を出さずにゆっくりと頷いた。その体は小刻みに揺れている。
(直……)
無理もない。
宙に浮いたまま、高速で上に下にと振り回されれば、誰だって怖い。安全が保障されているジェットコースターとはわけが違う。自分の腕力で、ゆずるにしがみ付いてなければならないし、万一、振り落とされれば、自分には死が訪れる。そう言われて、普通でいられるはずはないのだ。
ゆずるの瞳に、心配の色がちらりとのぞく。
もう少し、気遣ってやればよかった。
きっと、和久ならば何か気のきいた優しい言葉をかけてやれるのだろう。直久を安心させてやれるような、一言をあの陽だまりのような笑顔で。
でも自分にはできない。また、そんな余裕もない。
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