6 鬼ごっこ

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  「一瞬だったから、俺にも分からない。でも、近くにいるのは間違えない」 『さすが、ゆずるの妹だ。よく生きてたな。こんなところでたった一人で逃げ回ってるとは、見上げたものだ』 「だが、時間の問題だぞ。今の“声”は夢魔にも聞こえたはずだ」 『そうだな。兄たちと一度集合してから、手分けして探すことにする。何かあったらすぐに呼べ』 「頼んだぞ」  妖狼は、風を巻き上げ、一瞬で姿を消してしまった。瞬間移動だ。  ゆずるは、静かに直久を振り返った。不安そうな直久の瞳とぶつかる。 「……先詠は、もう、いないのか」 「大丈夫だ。俺が、誰も死なせやしない」  本当は、そんな自信も、保障もない。  ここからは、ゆずるが自身の命と、そして直久の命を守らなければならない。  だが、恐怖に負けたら相手の思うつぼだ。  不安に喰われたら、全てを失ってしまうんだ。  ゆずるは、自分の動揺を落ち着けるため、自分の神経を研ぎ澄ますため、一度だけ大きく深呼吸をした。 (大丈夫。夢魔に出会わなければいいだけだ)  自分に言い聞かせるように、ゆずるは心の中でつぶやいた。 「行こう」  二人は、音楽室の隅にある掃除用具入れの中へと足を踏み入れた。
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