6 鬼ごっこ

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   ◇◇◆◇◇  掃除用具入れの中は、直久が思わず息を飲むほどの広さだった。  入口こそ狭いのだが、箒を取り出してしまうと、その奥はトンネルのように真っ暗な闇が続いている。  今度はこんな所を歩いていくのかと、一瞬にして足が重くなるのを感じる。これではまるでお化け屋敷だ。  だが、ゆずるは迷う様子もなく、確かな足取りで掃除用具入れへと足を進めるので、直久もゆずるの手に引っ張られるようにして、と片足を踏み込んでしまった。  途端、埃とカビの臭いが鼻に付いた。思わず顔をしかめる。  だがそれも一時のことで、すぐに慣れた。正直それどころではなかった。  奥は暗闇で何がどうなっているのか見当もつかない。その恐怖と不安といったら、勝手に足が震えだすほどだ。  それを何とかゆずるに気づかれないようにするのに必死になりながら、直久は、ゆずるの手に導かれるままに、暗闇に続く掃除用具入れの奥へと歩き始めた。  すぐに、不思議なことに気づいた。  真っ暗闇で、照明も無いのに、なぜかゆずるの姿がはっきりと浮かび上がって見えるのだ。  夢の世界は何でもアリかよ、と思いながら直久は一歩一歩、足を繰り出す。  暗闇には地面も空もない。空中を歩かされている感覚に襲われた。  進んでいるのかどうかもわからない。  戻りたくても、来た道すら見当たらない。  ゆずると繋いだ手だけが、今は唯一の救いであり、命綱だった。自然にその握りしめた手に視線が行ってしまう。  この手が離れたら――。  一瞬、それを想像して、直久は頭から冷水をかけられたような、すさまじい恐怖が生じた。
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