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「……」
直久とゆずるが息を飲んで見守る中、夢魔はゆっくりとピアノから離れ、ステージの真ん中まで歩くと、こちらに向かって深々と頭を下げた。
「ご静聴ありがとう」
抑揚のない少年のような声でそう言い終えると、夢魔は大きく跳躍し、あっという間に直久たちの目の前に降り立った。
「こんにちは。ボクはパノン」
そう挨拶する夢魔を前に、直久は呆気にとられた。
真っ赤な髪の毛、白すぎる顔にトマトのような鼻が付き、目の周りには黄色の星が描かれている。
(夢魔って……ピエロだったのか!)
世の中のピエロが全て夢魔であるかのような直久の発言ではあるが、確かにそれはピエロの姿に酷似していた。
「ねえ、ボク、君のこと知ってるよ」
夢魔は、完全に直久を無視するように、ゆずるだけに熱い視線を送っている。
「君、小夜の臭いがするもん」
「…………」
(小夜? 小夜って、あの小夜か? うちのご先祖様の?)
直久が眉をひそめるのと同時進行で、ゆずるの顔がさらに険しくなっていく。
「ボクって天才だね。あの女の子を食べようと思ったんだ。だって、小夜の血を引く人間を食べれば、ボクは強くなるからね。そしたら、もっとすごいものを捕まえちゃった」
「ということは、優香はまだ無事なんだな」
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