7 最高に使いたくない最後の手段

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 何か思い当たることがあるのだろうか。直久も必死に記憶の本棚をひっかきまわしてみたが、もともと在庫の少ない本棚だ。全く見当がつかない。  首をかしげるだけの直久を置き去りにして、夢魔は尚も話続ける。 「その子の言うことを聞く必要はなかったんだけどね。ボクも油断したんだ。その子は、変な力でボクに命令した」 「……言霊(ことだま)」 「君たちはそう呼ぶんだね。ボクは術にかけられてしまって、その子の言う通りにしか体が動かなくなってしまったんだよ。だから、そろそろ約束の時間かな、と思って君の家に遊びに行こうとしたんだ。そしたら、美味しそうな女の子に出会ったんだよ」  美味しそうな女の子――それが優香か。  いくらなんでも、その言い草はどうだろう。  それまで黙って聞いていた直久も、優香をエサのように扱う夢魔に、苛立ちを覚えずにはいられない。  だが、ゆずるは直久とは違うところで、怒りを覚えたらしい。 「ならば、その“男”のせいで、優香はこんな目にあったってことか」 「あれ? ボク、その子が男の子だって言ったっけ? すごいね、正解だよ!」  夢魔はわざとらしく、パチパチと拍手して見せた。  その様子に苛立ちを増長させられながら、直久もあれ? と首を傾げる。 (男?)  言霊を使う、一族の男。  何か思い出しそうで、思いだせない。  
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