2 猫の手というか

2/32
3902人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
  「やっと来たか」  直久は小さくため息をついた。  自宅のリビングにある、直久お気に入りのソファーにごろりと横になりながらテレビを見ている最中に、その視界をちらちらと横切るソレに向かっての一言だった。 「たく、遅いっつーの」  空中に浮きつつ、ヒラヒラとこれ見よがしに往来する白い紙。    双子の弟にして、先ほど自分を置き去りにしてどっかに飛んで行った薄情な和久がよこした伝言である。  目に見えて、しかも、実体化してしまった、いわば携帯メールみたいなものだろうか。ただし、和久からの送りつけられる一方で、直久から発信することはおろか、返信することもできない。  仕方がない、直久は一族唯一の“無能(タダビト)”である。  つまり、これは和久だけではなく一族の能力者ならば、誰もが行える簡単な術で、遠く離れた相手にメッセージを送る時、平安の大昔から使われた方法だそうだ。  常々、直久は、不条理、理不尽、横暴、不公平の代名詞というべき代物だと、抗議してきたが、もちろん能力者どもは取り合ってくれない。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!