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ゆずるが、はっとしたように顔をこわばらせた。
ビリビリと電気のようなゆずるの緊張が繋いだ手を通して、直久にまで伝わってくる。
何かがあった。
直久はゆずるの視線の先を追う。
何も見えない。
瞬きしても、目を凝らしてみても。
自分には何も見えない。
「どうした?」
不安に耐えかねて、直久が口を開いた。間髪いれずにゆずるが、ナイフのような目で睨みつけてきた。
「黙ってろ」
直久は口を閉ざすしかなかった。
ゆずるはこの時、はっきりと聞いた。
一瞬だったが、不気味な笑い声だった。
まるで夢魔が、自分たちを嘲り笑うかのように。
まさか、気付かれたのだろうか。
飛んで火に入る夏の虫。そう言いたいのだろうか。
『ゆずる、聞こえたか?』
ゆずるたちの一メートルほど先を歩いていた獣が、こちらを振り返ることなく話しかけてきた。
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