5 虎穴に入らずんば

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 ゆずるが、はっとしたように顔をこわばらせた。  ビリビリと電気のようなゆずるの緊張が繋いだ手を通して、直久にまで伝わってくる。  何かがあった。  直久はゆずるの視線の先を追う。  何も見えない。  瞬きしても、目を凝らしてみても。  自分には何も見えない。 「どうした?」  不安に耐えかねて、直久が口を開いた。間髪いれずにゆずるが、ナイフのような目で睨みつけてきた。 「黙ってろ」  直久は口を閉ざすしかなかった。    ゆずるはこの時、はっきりと聞いた。  一瞬だったが、不気味な笑い声だった。  まるで夢魔が、自分たちを嘲り笑うかのように。  まさか、気付かれたのだろうか。  飛んで火に入る夏の虫。そう言いたいのだろうか。 『ゆずる、聞こえたか?』  ゆずるたちの一メートルほど先を歩いていた獣が、こちらを振り返ることなく話しかけてきた。
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