14243人が本棚に入れています
本棚に追加
/1015ページ
────地獄の審判者が生み出した断罪の炎。
闇に染まった中空に浮かび上がったそれは、主の命に赴くままに。
愚かな罪人を滅せんと、大気を切り裂くように打ち放たれた。
────ビリビリと圧迫されるような威圧感。
迫り来る焔は俺にとって死の象徴に他ならない。
その巨大な質量ゆえか、速度は先程よりは遅い。
しかし倍以上に膨れ上がったサイズはそれを補って余りある。
お世辞にも広いとは言えないこの廊下ではその大きさが大きな武器になる。
何しろ回避するスペースがほとんどない。
これを意のままに動かされたなら、逃げ場はまったくないに等しい。
だが────それでいい。
初めから逃げる気など少しもない。
逃げ場をなくしてくれて、かえって腹が据わるというものだ。
────両の眼で迫り来る炎をしかと見据える。
全身をゆるりと脱力させ、構えはとらず小さく息を吐く。
戦闘の最中にはそぐわない自然体。
左手では緩く鞘を握ったまま、右手を柄に添えて、目前に迫った炎を迎え────
「────」
────瞬間、周囲を異常な熱気が包み込んだ。
宙に舞った火の粉が、ちりちりと肌に熱い。
が、それだけ。
身体は炎には包まれていない。
ダメージはまったくない。
もちろん、避けたわけでもない。
立ち位置は不動。
俺は正面から極大の炎を迎え────結果、炎は闇に紛れるように千切れて消えた。
いや、正確には消えたのではなく、消した。
いくら異能と言えど、完全に掻き消えてしまえば、追撃などできよう筈もない。
最初のコメントを投稿しよう!