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第五十九章…神の正体
────間違った選択を選んだことなど一度もない。
それが彼の矜恃であり、事実、彼の生きざまそのものであった。
それは今も変わらない。
彼は今現在も“正しい”選択をし続けている。
────歪んだ箱庭の中、彼はいつだって弱者に手をさしのべ続けた。
最早その数さえ思い出せないほどに。
例外なく、同情なく。
ただ善意でそれを続けてきた。
それが彼にとっての正しい行いであり、同時に自らを支える誇りでもあった。
その正しさがより強固なものになった契機────
ある少女との出会いと別れが、彼の正義をより増大させた。
────彼は助けた。
虐げられていた少女を────
────少女は感謝した。
救いを与えてくれた少年に────
そこで終わっていればただの美談。
だが、そこで終わらなかったから現在の彼がいる。
────救いに与えられた報酬は度しがたい裏切り。
彼が必死に手のひらに握りしめた砂は、零れ落ちるどころか彼の身を強く蝕んだ。
それでも────それでもなお、彼は後悔しなかった。
消えようのない傷を負っても、自らの正しさを捨てることなく、むしろ誇りに思った。
彼が唯一後悔していることがあるとすれば、それは────
ゆらりと揺らぐ陽炎。
掴もうと試みても、ただただ空を切るばかり。
もう────喪えない。
その感情だけが、今の彼を突き動かす。
────彼の視界には一人の少女。
守るためではなく、裁くため────
彼はそっと刃に手をかけた。
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