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「……おい、なんのつもりだ?」
呆気にとられつつも、警戒は解かずに問いかける。
つい先程まで浮かべていた鬼気迫るものと打って変わって、浮かんだ表情はいつもの羅刹のそれだった。
「ふん、なんのつもりも何もなかろう。弥勒には貴様の様子を窺うように言われたのみ。呆けて遊び回っていたと伝えればそれで事足りる」
緊張感の欠片もない小僧よな、と羅刹は皮肉を吐いた。
先程までのやり取りを完全に無視────いや、忘れている。
羅刹の中では、いきり立ち俺に斬りかかったことも、きっと“なかったこと”になっている。
「お前……」
「む?なんだその顔は。まさか我に異を唱える気か?小娘にうつつを抜かしていたのは事実であろうが」
おそらく怪訝な顔をしていただろう俺を、羅刹はそう切り捨てた。
────気持ち悪い。
それが率直な感想だった。
こいつは異常だ。
いや、妖刀なんて代物に魅せられた時点で尋常ではないのだから、何を今さらという話だが、異常以外につける言葉が見当たらない。
常に堂々としていて、担い手の中では比較的理性的な方だ、なんて考えていた己のなんと愚かなことか。
────こいつは危うい。
鎌足や浪川も危うかったが、こいつの精神状況と比べたらまだまともだ。
壊れかけなんてものじゃない。
こいつはもう、とっくに壊れている。
金と呼ぶ兄弟と死別し、麻耶姉と離れてから、きっと。
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