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自動ドアの先の螺旋階段を下り、彼女は黒い化粧の施された空の下を歩き出す。
しかしその足は帰路につくわけではなく。
まるで行く当てもなく彷徨うように、家とは逆の方向に向けられた。
彼女の足は次第に大通りから離れていき、初めからそこが目的地であったかのように、たまたま目についた公園でその動きを止めた。
時刻はちょうど十時に差し掛かるところ。
見回してみれば、周囲に人気はまったくなかった。
それを好都合と見てとったのか、少女は無人のブランコに腰掛け、その小さな揺れに身を任せる。
昼とはまったく違った顔を見せる、街灯の明かりだけが目につく公園。
彼女のためだけに用意された、貸し切りの舞台のようだ。
その舞台の上、彼女は暫くキィキィというブランコの揺れる音にのみ耳を傾けていたが、周りが無人だったからだろう。
堅牢な殻で覆っていた心を休め、誰に言うでもなく呟いた。
「はぁ、ご厚意に甘えさせてもらいます、かー。今回も甘えさせてもらっちゃえばよかったかなー」
憂い気なため息とともに漏れたのは、紛れもなく彼女の本音。
先程は口に出さずに飲み込んだが、やはり自分に嘘を吐き通すことは叶わない。
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