14243人が本棚に入れています
本棚に追加
「……陽奈に、会いたいな。元気にしてるかなー、あの子……」
バッグから一枚の写真を取り出し、彼女は愛しげに視線を落とす。
写真に写し出されたのは、彼女自身とその傍らで佇む小さな少女。
その少女こそ、彼女が何に代えても守り通したいもの。
この世に残された、彼女の唯一の家族だった。
「……弱音吐いてばかりじゃ駄目かー。いくら嫌でも、そろそろ家に帰らないと。それに────」
公園には、あまりいい思い出ないし、と。
彼女はそう口にして、写真をバッグに戻し、ゆっくりと立ち上がった。
彼女の足はそのまま公園の出口の方へ。
あれだけ帰るのを拒んでいた、家路に向けられようとしている。
その心境の変化は彼女にしか知り得ないが、その変化を与えたのが写真の少女だということだけは間違いない。
しかし、彼女が公園を出ようとする寸前、それを止めるように携帯電話の着信音が鳴り響いた。
その着信音は、ある少年にのみ設定したもの。
昼にも彼女の身を心配して連絡をくれた、彼女の友人からの着信だった。
最初のコメントを投稿しよう!