第五十九章…神の正体

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「あ────」 突きつけられた事実に呼吸が乱れる。 言語は忘却され、心身ともに恐怖のみが駆け巡る。 ────死ぬ。 あの男と同じように全身炎に包まれて。 自分が────死ぬ。 「────」 脳裏に過る映像(きおく)が彼女を蝕む。 走ってもいないのに、呼吸はますます乱れていく一方だ。 他人の命がかかっている状況と、己の命がかかっている状況。 その差異を、彼女は己が身を以て痛感した。 「────行か、なきゃ。私、このままじゃ……」 ────殺される。 その言葉を口には出さず飲み込んで、震える手で携帯電話をバックにしまった。 ────まだ間に合う。 彼のところまでたどり着けば、きっと彼が守ってくれる。 彼女と彼との付き合いは二年にも満たないが、彼が“そういう”人間だということは理解していた。 叩き落とされた絶望の淵、唯一残された希望の糸。 その糸に縋ろうと、ゆっくり足を踏み出そうとして──── 「────動くな。動けば殺す」 ────本当にあっさりと。 その糸を断ち切られてしまった。
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