第五十九章…神の正体

20/83
前へ
/1015ページ
次へ
「右手に林があるのが見えるな?そこに入れ。足を止めるなよ」 公園の右手側、敷地内から抜けられるようになっている林を視認する。 喉は凍りつき、身体の震えは一層強まるばかり。 月は八月、蒸し暑い熱帯夜だというのに、背筋に感じる寒さは氷点下のそれだ。 真実、彼女は恐怖という名の寒波に凍えていた。 植え込みを避け、背後に迫る死に背中押されるように、彼女は林の奥へと足を進めていく。 そのまま歩き続け、公園内からその姿が視認できなくなろうかという辺りで、背後から再び死神の声が届いた。 「止まれ。ここでいい」 その声とともに、首筋にあてがわれていた冷たさが失われたことを感じ取る。 それにわずかに安堵したのか、意思とは関係なく、彼女はそのままその場にへたり込んだ。 「は、は、はぁ────」 必死で呼吸を整え、ゴクリと大きく喉を鳴らす。 背後の気配は当然なくならない。 いまだ危険が去ったわけではなく、一寸先にはぽっかりと死が口を開いている。 彼女の命は、言わば風前の灯。 それでも、思考ができる程度の冷静さはなんとか戻ってきていた。
/1015ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14243人が本棚に入れています
本棚に追加