第六十二章…Lost Memory

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乱れ舞う火炎が耳元を掠めていく。 熱い、と感じる暇もない。 それどころか、今は呼吸の間すらも惜しい。 たかが息継ぎですら致命的な隙になりかねない。 縦横無尽に荒れ狂う炎から、無呼吸状態で身を躱し続ける。 思考はすべて予測に費やし、身体は脳からの命令についていくのが精一杯。 穂村の居場所を考える余裕なんてまるでなくなった。 ただ一つ、この状況下で断言できることは。 このまま回避を続けているだけでは、勝機は万が一にも訪れないということだけだ。 ならどうする? 逃げ続けて状況が好転しないなら、如何にしてこの状況を打開する? その一手は──── 「────!?」 瞬間、背筋が凍りついた。 繰り出される筈の攻撃が来ない。 ブーメランのように急旋回し襲い来る筈だった炎撃は、いつまで経っても俺の視界には映らない。 ────予測が外れたわけではない。 外れたのではなく、予測の埒外。 今の今まで俺の周囲を飛び交っていた火の玉は、いつの間にか完全に“消失”していた。
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