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「溝を作った、だけ?ずいぶんと簡単に言ってくれるが、それがどれだけ困難なことかわかって言ってるのか?お前は子供にでもできると言ったが、そんな筈はない。達人と呼べる域ですらできるかどうか……。大気に溝を作るほどの剣撃、それを鼻歌気分でやってのけたと言うのか、お前は?」
問いかけを続ける穂村の口調は重い。
時間を置き、冷静さは多少戻ってきたようだが、やはり驚愕の色は隠せないようだ。
俺が鼻歌気分でやったかどうかは別として、穂村の言っていることは概ね正しい。
炎を斬る────
正確には大気を斬るだが、それを成すには並々ならぬ“速度”が必要だ。
子供は言うに及ばず、剣の心得がある大人でもできるかどうかはわからない。
正直、俺もそれほどまでに自信があったわけではない。
窮地に立たされ、それ以外に選択肢がなくなっただけ。
余裕を装ってはいたが、内心はかなりヒヤヒヤだった。
だが、結果としては上の上。
これ以上は望めない結果を叩き出すことができた。
しかし、それも必然。
幼い頃から何万、何百万と馬鹿みたいに繰り返してきた素振り。
空くらい、今まで幾度となく断ってきていた。
それを、ただ実戦で実践することになっただけ。
不思議なことなど何一つない。
当たり前のことが当たり前に起こった。
要はそれだけの話だ。
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