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寒さが厳しくなってきた今日この頃…
俺は清水寺の参道である坂を登っていた。
一人では無く、俺の少し前には建ち並ぶ店を嬉しそうに見ながら進んでいく***がいる。
俺達は少し時期を外して京都の清水寺に初詣に来ていた。
もちろん、幸村様がたまたま用事で京都に立ち寄ったからであるが…。
「才蔵様?どうかしましたか?」
「いや、何でもない。そろそろ清水寺だな……。」
俺の足が遅いことを気にしたらしく***が声をかけてくる。
何もないと答えるとまた前を向いて***は歩き出した。
そう、今俺の隣には***がいる。
最初はなんとも思っていなかったが次第に惹かれていった。
こんな感情を持った事が無かった為に、戸惑い***を困らせもしたがお互いの気持ちを通じ合わせ、今***は俺の隣にいる。
上田城に戻ればアイツは幸村様付きの女中となるため、なかなか会えなくなるが旅に出ると今日のように一緒に出掛けたりする。
「わー、凄い人ですね……。
えーとお賽銭…お賽銭…。」
清水寺に着くとまずお賽銭を入れて2人でお参りする。
終わると***が舞台に駆け出して行った。
「凄い…京都の街が一望でききますね!!」
手すりに手をかけて目をキラキラさせながら俺の方に振り返る***。
コイツは表情がコロコロ変わる。今までいた裏の世界では絶対に出会うことのない人間。
俺は***の側に来ると景色を見て呟く。
「ああ…綺麗だな。」
「才蔵様は何を神様に願ったんですか?」
「………。」
「あっ、答えたくないなら良いんです!
気にしないでください。」
俺の無言の返事を拒否だと思ったらしい。
そんな訳ではないのだが…
「………。
***……本当に俺で良かったのか?」
俺は不意に口を開いて***に問いかけた。
***は驚いた様に目を丸くする。
すると***は俺の腕に抱き着いてきた。
「当たり前じゃないですか。
私は才蔵様じゃないと嫌です!」
ニコッと笑いながら俺でも良いと言ってくれた***を真っ直ぐ見ることが出来ない。
未だに自分の感情がよく分からない俺は***に迷惑をかけているだろう。
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