椿鬼

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…お腹が、空いた。 寒さにかじかむ真白な指先に、ハァと息を吹き掛ける。 その白い煙がふわりと浮かび、 スゥ、と消えたその先には、ぽってりとした淡い灯りが見えた。 しんとした白銀の世界。月光が反射して青く見える世界で、ひどくその灯りが暖かく見える。 ……お腹が空いた。 溜め息混じりにそう呟くと、その灯りを背に森の奥へと姿を消した。 森の奥の更に奥。 一見あばら家にも見えそうなその家に小さく淡い灯りがともっていた。 寒さで冷えた身体を擦りながら中へ入ると、直ぐに大きな声が迎えた。 「もー椿鬼(ツバキ)!一体何処に行ってたんだよ!粥が冷めるじゃんか!」
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