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エンは学園長室の前に辿り着いた。
乱れる呼吸を整え、扉を叩く。
「どうぞ~」
やっと追いついたウィン達と共に部屋に入る。
「おや、君たちか」
椅子に座り、書類を見ていたシェナはエン達の姿を認めると、ソファに座るように促した。
「いえ、このままで大丈夫です!
学園長!!カイはどこにいるんですか!?」
エンは飛びかかりそうな勢いでシェナに尋ねる。
「まぁまぁ落ち着いて」
シェナは手に持っていた書類を机に置くと、エンに向かって優しく微笑んだ。
「大丈夫、ちゃんと帰ってくるよ。ちょっと体調が優れないみたいでね、もうしばらくすると良くなるよ。
今はお兄さんの所で療養中なんだ」
大丈夫という言葉だけではまた乗り込んでくるだろうと思ったシェナは少し詳しい情報を与えた。
「そうなんですか…」
エンの勢いが静まった。
シェナはこれで納得してくれたのだろうと安堵した。
「今は休ませてあげてよ」
お見舞いという選択肢を消すようにシェナはエンに向かって微笑みながら言う。
エン達は俯きながらも納得して部屋を出て行った。
もうすぐ世界が夜に包まれる。
シェナは一息ついて椅子に座ったまま、くるりと一回転した。
兄のシュナからの連絡で全てを知っているシェナは、本気でカイを心配しているエン達に嘘をつくのに心を痛めていた。
しかし、内容が内容なだけに話すことは出来ない。
「もう1人弟が出来たんだ」
その兄の言葉でシェナはカイの存在を知った。
それからカイの話を幾度となく聞かされ、初めてカイに会った時、何故シュナがそこまでカイを思うのか理解できた気がした。
見た目は強がっているが中身はすごく脆い、そんな印象を受けた。
今までは、ランスの総司令である兄にそっくりなこの容姿があまり気に入らなかったが、初めて自分の容姿が兄に似ていてよかったと思えた。
そのおかげでカイが警戒する事もなく話してくれるからだ。
カイは兄の弟なのだから自分の弟でもある。
これから何が起きるかわからない。
カイの事は心配だが、自分は学園長である。
この学園を、生徒を守るという使命が自分にはある。
何者かによって窮地に立たされているカイ。
シェナの瞳には怒りの炎が揺れる。
だが、使命感がそれを奥へ奥へと誘うのだった。
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