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ぎりっと赤く塗った唇を、牙が傷つける。
ルージュじゃない鉄臭い何かが滴り落ちる。
周りを見回してみれば、部屋中のものが壊れて散乱しているのがわかる。
唯一惨劇を免れたベッドの上では、この部屋の主であるサリアが横たわっていた。
眠ってはいない。
その目はぎらぎらと輝き、肉食獣だって寄りつきはしないほどの殺気を放っていた。
許せない。
あの生贄の女が、許せない。
この手で殺してやりたい。
しかしそんな事をすればシキは二度と手に入らないだろう。
自分は綺麗なものが好きだ。
整った外見の彼には、自分の隣を歩くだけの価値がある。
絶対に手に入れたい。
しかしどうすればいい。
下手に動けばすぐに自分のせいだとばれてしまう。
「誰にやらせようかしら?」
ようは自分が極力関わらなければいいのだ。
簡単に動く駒はいくらでもいる。
少女の最後を想像して、サリアは笑いを零した。
慣れはじめ編、完
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