鼓 動

7/10
前へ
/33ページ
次へ
「なありん」 「はい」 「お前、あいつが怖くねえのか?」  りんは「?」と首を傾げる。 「ううん。りんは殺生丸様のこと、一度も怖いなんて思ったことは無いよ」  そして思い出す。  初めて出会ったときのことを。  どうして何も食べないんだろう。  最初はどんな食べ物を持っていけばいいか分からないから、とりあえず人間の食べ物を木の葉に乗せて持っていったんだ。 『人間の食べ物など、口に合わぬ』  そう言われたから、次はヤモリとか…人間があまり口にしない生き物をそのまま持っていってみた。  それでも『いらぬ』って追い返されちゃったけどね。  どうして何も食べないんだろう。  それでも毎日、水も一緒に届けたりしたよ。いつでも食べれるように、食料も置いた。  お腹が空いたら、いつでも食べれるようにしておくことしか、りんには思いつかなかったから。 『顔をどうした?』  顔を怪我していたりんに、自分からかけてくれた言葉。  あの時は本当に嬉しかった。 「お前と出会ってからのあいつは変わった」  頭上から降ってくる声に、りんは現実に引き戻された。 「前のあいつは・・・自分の道を塞ぐ物、全てを殺すような目をしていた。義兄弟の俺にでもその爪を閃かせていたんだ」  初めて会ったかごめに対しても、容赦なかった。 「でも、今は違う。  ・・・お前と会ってからのあいつは、何と言うか・・・その・・・」  言葉を濁す犬夜叉に、誰かが抱きついた。 「おぅわぁっ!?」  反射的に鉄砕牙を握る。 「何話してるの~?」  間延びした声に、ぱっと振り向いた。 「…かご…め」  早鐘を打つ心臓を押さえながら、鉄砕牙から手を離す。 「殺生丸様のこと、話してたんです」 「殺生丸の?」 「りんが殺生丸様と初めて出会った日のことを話していたら、犬夜叉様が言ったんです。  『お前と出会ってからのアイツは変わったな』って」  そうね、とかごめも犬夜叉から離れてうなずいた。無防備の自分に容赦なく毒を浴びさせてくれたのだから。 「殺生丸の優しさはね、りんちゃんにしか分からないわ」 「何でですか?」 「りんちゃんが大事だからじゃない?」  犬夜叉が口にしたら殺生丸に殺されそうなセリフを、かごめはすらすらと口にした。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加