141人が本棚に入れています
本棚に追加
①今度来る時は…
いつものように、新しい着物を届けに来た。
「…殺生丸さまあ!」
胸の中に飛び込んでくるりんを抱き締めたまま、着物を差し出す。
「…これ、殺生丸さまが選んだんですか?」
「いや、選んだのは琥珀だ」
いつもなら邪見に押し付けるのだが、別の用事で自分の傍にいなかった。だから琥珀を呼びつけた。
『これでどうでしょう?』
『ちゃんと新品を選んだか』
『はい』
「じゃあ、今度は殺生丸さまが選んでくださいね!」
「承知した」
着物を受け取ったりんは、嬉しそうにそれを抱き締める。
「あ、でも…」
突然その笑顔が曇る。
どうした、と訊く前に自分を見上げたりん。
「これ以上ふえると、置く場所がなくなっちゃうかな…」
楓さまに悪いな、という呟きを耳にするなり、ひとつの案を思いついた。
「りん、今も楓さまの家に住んでいるから…」
そんな二人を遠くから眺める人物。
「おや、また人里に下りてきたのですね」
「人を熊みてえに言うな」
小声で交わされる会話も、殺生丸はちゃんと聞いていた。
「わかった」と殺生丸が立ち上がる。
「わかった、って…」
「何がだ?」
「次は蔵だな」
りん達はその言葉を理解するのに、五秒を費やした。
「殺生丸さま?…あの、それはもしかして…」
「次に来る時は、要らぬ心配をしなくていい」
((建てる気だ!!))
何で、などと訊いてはいけない。
「…本当に、りんにぞっこんですね…」
「アイツなら、蔵のひとつやふたつ、楽々と建てそうだな」
りんは呆然と、立ち去る殺生丸の背中を見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!