彼方の月。

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 りんはそのまま阿吽の背に腰掛けた。 「今日は随分と暗いんだもん」  そうして見上げた空は薄暗く、雲に覆われて星も見えない。 「まあ、これだけ雲っておればな。  朔の夜も近いから仕方あるまい」 「さく?」 「月の無い夜のことだろうが。知らんのか」  しばらく空を見ていると、月は雲に隠れて見えなくなった。   「それがどうした」 「だって、真っ暗だから」 (―――ははあ、やはり闇が怖いのか)  不可視への、恐怖。  闇は、己もそれ以外も、全てを覆い尽くす。 「・・・殺生丸さま」  小さな呟きは、夜の闇に解けて消えた。 「どこいっちゃったのかな」 「知らん」  胸中の言葉の先までさらわれて、思わず不機嫌が露わに出た。  儂が知りたいわ、と吐き出したのには知らぬ顔で、知ってる?などと阿吽の背を撫でている。 (―――大体、今の言い草・・・儂では頼りないとでも言いたいのか?)  不図、そこに思い当たりむっとしたものの、心細いのは此方も同じ―――いやいや、これでも殺生丸さま一のお付にして唯一の―――それにしても殺生丸さまは何処に・・・などと、他愛無い苛立ちは結局は又いつもの愚痴に紛れてしまう。  ぱきり、と薪の爆ぜる音だけが、夜の場にそっと蒔かれていく。   「お月さま、いないね」  闇夜はまだ怖い。  でも、一人で居るよりはずっとマシだ。 (―――あまりにも、まっくらだから) 「死んじゃったみたい」 (ずっと暗い道へ続く、あの時の道みたいで)  あの世へと続く道、冥道(めいどう)。  真の闇に踏み込めば、誰も帰って来れないと言われていた。  ー二度と太陽の光を見ることなく。 「バカをいえ」  気が付くと、邪見が目の前にいた。 「月が死ぬわけが無かろう」 「何で、そう言い切れるの?」 「何じゃ。もう忘れてしまったのか?」  邪見は大きなため息をつく 。 「前にその答えを…あのかごめとかいう巫女が教えてくれたではないか」 「かごめさまが?」
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