彼方の月。

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『ねえりんちゃん』 『はい?』 『りんちゃんは太陽と月、どっちが好き?』 『月です!かごめ様は?』 『私は太陽だな』  りんを妹のように見ているかごめ。 『太陽と月は共存共栄なの』 『きょうぞん?』 『どちらかが欠ければ、どちらも存在することが出来ない』  太陽があるから月がある。  月があるから太陽がある。 『…あ。でも、新月のように月がない日でも、ちゃんと存在しているから』   「ずっと、いるんだね」  ああ、と邪見の声にも嬉しそうに頷く。何度も。何度も。  静かに、目を閉じて。ただ、静かに、息をする。  冥道。  世界を覆い隠す無明の闇。 (りん、また死んじゃったんだよね)  それでも、来てくれた。  二度と戻って来れないと言われていた、真の闇にまで来てくれた。    刹那、囁いた風の音。 「―――あ」  ふたつの光が、死んだ自分を再びこの世に連れ戻してくれた。 「なんじゃ?」 「見えたよ、お月様!」  りんね、信じていたよ。  きっと来て下さるって。  閉じた瞼の隙間、さしこんでくる光が広がる。 「おお、殺生丸さま!」  まるでその道行きを照らすかに、雲間から漏れ出る月光がやんわりと霧散していく。白銀の髪は、空気のようにそれを纏い、一層と煌く。 月よりも目映い、彼(そ)の御姿に微笑んだ。 阿吽の背から軽々と飛び降りると、少女はその華奢な躯で目いっぱい駆け出す。  瞳を閉じて、それでも溢れる目映さの方へ、走り出す。 「殺生丸様!」 消えない光は在りますか たとえばあの空の光のような。 たとえばあの月のような。  殺生丸は地面に膝を着き、走ってくる少女を片腕で抱きしめた。 「殺生丸様、お帰りなさい!」  抱いたまま、懐から摘んできた花を差し出す。 「ーこれ、りんに?」 「道中で咲いていた。  お前が好きな花だったな?」  りんのために、わざわざ摘んできてくれたんだね。 「はい。ありがとうございます!」  もう大丈夫。  だってりんには、とても心強い『お月様』がついているから。  ーーね、殺生丸様。
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