【ことの始まり】

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まずは現在から少し前にあたる時点から話を始める。 まだ冬が抜けていないために肌寒い、でも珍しく天気が良い3月のある日。 ある人は中学なり高校なりの卒業式を迎えて涙腺崩壊、またある人は合格発表という名の関門を前に心臓をバクバクさせているかもしれない、そんな時期か。 「……さぶぅ!!!」 と、ここ最近一度は口にしないと気が済まない一言とともに、猫のごとく丸まっていた絨毯(床暖付き)から跳ね起きる。 すぐさま手の届く範囲に転がっていたエアコンのリモコンを取るが、その下部にある『暖房』の赤ボタンを押すのには、常の如く迷いが生じた。 理由は単純明快。 「……暖房は我慢しとけ、また怒られるぞ?」 「だよなぁ……母さん守銭奴だから怒ると怖い」 「そこは倹約家と言っとけ。少しはマイルドになる」 「……マイルドだぜぇ~、ってか? つまんねー」 「いやお前がな」 そう、奴の言ったとおり、押すか否かを迷っていたのは、単純に怒られることへの憂慮である。 それはそうと、図々しくも俺の部屋で俺のベッドを占領しているこの茶髪テンパの名は相葉法幸、家も近く幼稚園からクラスもずっと一緒、という腐れ縁だ。 もし、このシチュエーションでこいつが幼馴染の可愛い女の子だったらなぁ……なんて想像は何度したか分からない。 「徹也、そんなに寒いなら俺の隣で寝るか?」 「遠慮しとく……俺には断じてそんな趣味はない」 「つれないねぇ」 冗談なのは分かるが、そういう変なこと言うのは止めろ。 面白がってそんなからかい方をするから、毎度毎度残念な想像もしたくなるんだよ。
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