【ことの始まり】

4/7
前へ
/7ページ
次へ
と、それから少し意味の薄いじゃれ合いを続けてから外に出てきたわけだが案の定、アラスカ大陸も真っ青なくらい極寒だ……。 みろ! もはや何言ってんのか自分でも分からん。 特にこれといった目的もなかったし、やっぱ部屋戻ろうかな……。 「あら徹也、出かけるの?」 「あ、母さん……只今絶賛迷い中だよ」 「……んー? なんだかよく分からないけど、ほらっ」 なんて玄関口でまごついてたら、ふいに背後からのんびりした声が掛かった。 塾から帰ってきたのか、と振り向くと同時に首元をふわっとした感触で包まれる。 それは通学時に俺がよく使っている紅色の、母さんの手編みマフラーだった。 「風邪ひかないように気をつけなさいよ」 「うん、ありがとう……行ってきます」 「……? なんでちょっと残念そうなのかしら」 そう仰ったのは、さきほど法幸との話に登場した倹約家マイマザーこと黒田久子さんである。 くるりと巻いた黒髪に女性としては高めの身長、外見は法幸をして「どうみても20代!」と言わしめる程の美貌(?)を持っているらしいが、裏では今年でついに四十路だと嘆いている。 奴に限らず、母さんを初めてみた友人はみんな似たようなことを言うけど、息子の俺としては何というか不思議な気分です、実際。 「さて、勢いで出てきたものの、どこに行ったものか」 もともと気分転換程度のつもりで出てきたから、特段行くあてがある訳でもない。 とはいえ、母さんがマフラー巻いてくれたおかげで寒さはそんな気にならないし、久々に「あれ」の顔でも見に行こう。 奴の異常なテンションには少し気が引けるが、普段弄られ役の俺としては、逆に弄る側に立てるのは楽しい。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加