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「ただいま~」
「ミィ!」
家に入って俺が呟くと、クロが玄関まで走ってきた。どうやら懐いてくれたみたいだ。
子猫用のエサとミルクを皿に入れ、制服から部屋着に着替える。リビングでテレビを付けてようやく一息。
「家族か……」
家族が羨ましいと思った。いつ以来だろう、もしかしたら初めてかもしれない。
俺に家族がいたら今はどうしてたんだろう。
両親がいて、兄弟とかいたりして、賑やかで明るい家庭だっただろうか。
「……やめよ」
何か寂しくなってきた。無意味にテレビの音量を上げていく。
その時、テレビの音とは違う音楽が聴こえてきた。携帯の着信音だ。
「はい、もしもし?」
『あ、もしもし? 奥川君?』
「あ、はい」
女の人の声。誰だ? どこかで聞いたような……
『アルバイトの件だけど、今週の日曜日から入れるかな?』
「あっ、あぁ、はい。すみませんうるさくて……」
思い出した、この間バイトの面接した寿司屋の店長だ。俺は急いでテレビの音量を下げる。焦ってるのか電源を消す発想が出てこなかった。
「えっと、来週の日曜日……って事は採用、ですか?」
『うん、という訳でこれからよろしくお願いします』
「あ、ありがとうございます!」
何故か立ち上がって頭を下げる俺。
『で、いきなり申し訳無いんだけど、ゴールデンウィークって凄く忙しいの。奥川君にも入ってもらいたいんだけど良い?』
「はい、大丈……」
途中まで言いかけて俺はカレンダーを見た。
『ひょっとして用事があった?』
「あ、すみません。5日がちょっと……」
『5日ね、わかったわ。さすがに全部出ろとは言わないから大丈夫よ』
そう言われて俺はほっとした。
それから話を聞いていると、どうやらこの人、俺と同じ学校に通っている3年生らしい。優しそうな人だし、よかった。
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