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「久しぶり、駿」
俺の前まで来ると女性はそう言った。佐藤美希(サトウ ミキ)、この園で唯一の、俺と同い年の女性。
どこか品のある身のこなしは相変わらずで、肩車をしてと駄々をこねたり体育館で熟睡するような事は無い。断じて無い。
いや、別にそれが嫌な訳でも無いんだけど。断じて無い。
「駿もやっぱり来てたのね」
「あぁ。美希もな」
美希は俺の最も親しい人で、最も信頼できる人で、最も俺の事をわかっている人。
逆に、たぶん美希にとっての俺もそんな存在だ。何せ物心付いた時から1人暮らしをするまでの15年、顔を合わせない日は無かった。それどころかほぼ常に一緒にいたからだ。
「久しぶりにあそこに行かない?」
「あぁ、わかった」
美希にそう答えると俺達は園の外へ向かって歩き出した。
相変わらず、不思議だった。
美希の声は他とは何か違う感じがして、聴いていると心が落ち着いてくる。
安心。美希の声から感じられる物。たぶんこれは美希が特別と言うよりも、それだけ俺が美希を信頼しているという事だろう。
俺達は特に会話をするわけでもなく、ただある所へ向かって歩いた。
別に話す事がない訳じゃない。むしろこれから散々話すだろう。
ただ、今はその時じゃない。
住宅街を歩いていき、近くの公園に着く。公園に入ると、その奥へ奥へと更に歩く。
やがて『それ』が聴こえてきて、懐かしい気持ちを更に大きくする。
「涼しいな……」
公園を突き抜けると河原がある。
そこは俺達のお気に入りの場所。
大きな川の流れから生まれた涼しい風が体中に巡る。
「どう? 高校は」
美希は川に手を入れながら、隣にいる俺に訊いた。
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