春風

2/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
春の夜風が心地良かった。 眠りについた若草たちを優しく愛でるように、風は夜営地の中を吹き過ぎてゆく。 レニ・ライナはラム河の堤に立ち、対岸の「敵」に向かって手を降った。 その姿に気づいたアスピア王国側の夜警たちも、レニに手を振り返してくる。 「平和だなぁ」 およそ最前線にふさわしくない台詞を呟きながら、レニはこの夜何度目かの欠伸をこぼした。 ―アスピア王国― レニの属するタイニア王国の公敵である。 この両者にヤクヤ帝国を加えた通称「三姉妹」は、七十二年間に渡り戦火を交えてきた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!