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春の夜風が心地良かった。
眠りについた若草たちを優しく愛でるように、風は夜営地の中を吹き過ぎてゆく。
レニ・ライナはラム河の堤に立ち、対岸の「敵」に向かって手を降った。
その姿に気づいたアスピア王国側の夜警たちも、レニに手を振り返してくる。
「平和だなぁ」
およそ最前線にふさわしくない台詞を呟きながら、レニはこの夜何度目かの欠伸をこぼした。
―アスピア王国―
レニの属するタイニア王国の公敵である。
この両者にヤクヤ帝国を加えた通称「三姉妹」は、七十二年間に渡り戦火を交えてきた。
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