淡い気持ち

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階段に背を向け 接客をする私は降りてくる彼を見逃すまいと背中に意識を集中する。そんな時はいつも上の空になってしまうから、店長の平井さんには私の気持ちがすぐにバレた。 「ねぇ‥莉子ちゃん、そろそろじゃない?今日も声かけないの?」 「‥‥‥いいんです。見てるだけで幸せですから。」 「もう‥私までじれったいわ!あなた珍しく臆病なのね‥あ、来たわよ。」 平井さんは私以上にそわそわとして横を通り過ぎる彼をチラチラ見ていた。 そんな平井さんが少し恥ずかしくて彼の横顔すらまともに見れず私は俯いてしまった。 せめて彼の後ろ姿だけでもと思い、私は顔を上げた。いつもなら軽く会釈をしながら通り過ぎる彼の背中を見たくて。
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