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おおよそ十分も経たない内に仕度を終えた俺達は、足早に部屋を後にした。
それというのも、よっぽどパフェを食べれることが嬉しいのか、「ぱっふぇ、ぱっふぇ」と連呼しながら準備を急かして来たからである。
お陰でろくにワックスも付ける暇もなかったよ。
多分、いま鏡を見たら、自分の情けなさに穴があったら入りたくなるだろうことこの上ないだろうが、そんなことをしたら雛ちゃんが怒るだろうから止めて置こうと思う。
第一そんな都合のいい穴なんてないしね。
「つかれたー……」
マンションを出て街へ向かって歩くこと十数分。突然雛ちゃんが立ち止まり、駄々をこねだした。
そういえば完全に自分のペースで歩いてしまってたな。
ここは小さな体の雛ちゃんにペースに合わせて歩くべきだった。
……なるほど、これが子供を持つ親の気持ちというやつだろうか?
こうやって些細なことにまで子供に気を配らなければならない。
我が身を案じず子の身を案ずる、か。
昔のことはよく覚えていないが、俺がこのくらいの頃はあの人も随分優しかったような記憶が微かにある。
その時はあの人も、たじろぎながらあたふたしていたのだろうか。
そうだとしたら凄く絵になるし、笑えて来る。
「つーかーれーたー」
思い出に耽っている内に、又もや雛ちゃんのことを疎かにしてしまっていた。
「よし、雛ちゃん。ここは俺が一つ、肩車してあげよう」
「え、いいの?」
「ああ、じゃあ行くよー」
俺は雛ちゃんの脇腹辺りを持つと、自分の頭の上まで一気に持ち上げ、そのまま足が肩にかかるよう器用に動かした。
「おおー!」
「どう? よく見えるかい?」
「ママの肩車より全然高いよおー」
「そりゃよかった」
この体制じゃ顔は見えないが、嬉しそうな声が聞こえるだけでやってよかったと思えて来る。
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