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四階に到着すると、女は少女を連れ所定の部屋を目指す。
「ここだな」
ジーパンのポケットの中からメモを取り出し、ソレと目の前の玄関の扉の部屋番号とを交互に見る女。
確認をし終えると女は扉の横にあるインターホンを押す。
「…………」
しかし、一分程待っても扉の向こうからは物音一つしなかった。
女は見るからに機嫌を悪くしつつももう一度インターホンを押す。
だが結果は変わらず、扉の向こうはだんまりを続けている。
「…………っ。どうなってやがる、麗奈の奴……手筈はしておくって言ってやがったのに」
「ママー、どうかしたのー?」
「ん? あぁ、いや、雛は気にすることないよ」
「ほぇー」
女は悩んでいた。鍵の開かない今、どうするべきかを。
大家か警備員を見つけて、マスターキーや合い鍵を借りるべきか。
だがそうすれば、手続きに結構な時間を食われてしまう。
「仕方ねぇ、ここはアレでいくか……」
女は肩にかけていたショルダーバッグから何か細い棒のような物を取り出すと、扉の前でしゃがみ何か作業を始めた。
「なにやってるのー?」
少女が覗き込むようにして女の視界に入る。
「あー、こら、見ちゃダメだって。ほら、あっち行ってな」
女に蔑ろにされた少女は、少しつまらなさそうな顔で後ろに下がる。
「ここを……こうか?」
女が慎重に手を引くと鍵の開く音が聞こえた。
かかった時間は僅か一分足らず。同業者から見てもベテランレベルの速さである。
「もういいよ、雛。こっち来な」
その言葉を聞いた少女は小走りで女の隣へと寄り添う。
「よし、んじゃ行こうか――」
女が扉を開けたその時、狙ったかのようにして携帯電話が鳴る。
音源は女のバッグの中からだった。
サブディスプレイには『番号非通知』の文字。
「ったく、こんな時に誰だ……」
女は今日一番の不機嫌顔で電話に出た。
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