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非通知で電話をかけて来る輩に、どうせまともな神経をした奴はいない。
女は自分からは名乗らずに相手に問いただした。
「誰だ」
『もしもし、俺だけ――』
「麗奈か」
「なぜわかった……」
変声機を用いた、電子音で構築されたような声を女は遮って、特に迷いもせずに相手の声の主を言い当てた。
「これで何度目だ。私は何度も同じ手にひっかかるほど、馬鹿じゃないぞ」
「むー……つまらん妹よのう」
「……悪かったなつまらなくて」
電話の相手は女の姉だった。
前に非通知でかけて来る輩にまともな神経をした奴はいないと言ったが、まさしくその通り、この姉は尋常ではない。何と言えばいいのかわからないが、一言で表すとすれば『ぶっ飛んだ人』というのが一番型にはまる。
「まあ、それはいいとして、鏡花、今どこにいる?」
鏡花というのはこの子連れの女の名前だ。
そして恐らくここからが本題だろうと、鏡花は長年の付き合いからそう察した。
「どこって、お前の息子の部屋の前だが……」
「あ、やっぱり?」
麗奈は少しばつが悪そうな声で言った。
「やっぱりってなんだよやっぱりって!?」
鏡花は語気を荒げて麗奈を問いただす。
「いやー、それがすっかり今日の事を息子に伝えるの忘れてたよ、うん」
その時、鏡花の持つ携帯から異音が聞こえた。いや、正確には異音を立てたというべきか。
彼女の手は相当な力で携帯を握っている。
「ん? 何か変な音が聞こえたんだけど……気のせい?」
「気のせい」
「アレー? なんか声が怖いよ鏡花サン?」
「気のせい」
「……」
「明日の夕方、あんたも公園に来い」
明日の夕方の公園、そこで雛を受け取ることになっている。
そこで麗奈に何をしようというのか、それは明日の夕方まで秘密としよう。
「もし、断ったら……?」
恐る恐る麗奈は鏡花に尋ねる――
が、返事は終話音だった。
これは行かないと色々と大変なことになりそうだ。
あと一応、愚息にも朝方に電話を入れておこう。
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