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手をふって鏡花の姿を見送った雛は、さっそくドアを開ける。
中を覗くと真っ暗闇だった。廊下からの光で辛うじて中が見渡せる程度だ。
入ってすぐ横の壁にスイッチを見つけた。蛍光灯の明かりを点けるためのものだろうか。
試しに手を伸ばしてみたが届かない。
更に辺りを散策してみるが、踏み台や手の延長物になりそうなものはなかった。
こういう時、自分の身長が小さい事にコンプレックスを感じる。学年でも列になる時はいつも一番前だし。
牛乳を毎日飲めば大きくれるのかな。
明かりを点けることができない以上、暗がりを進んでいくしかない。
決心した雛はドアを閉じる。
一気に辺りが黒に包まれる。
廊下の光が差していた頃はまだなんとか中の様子を分かったが、今や一寸先さえ何も見えない。
恐怖心はあったが、それよりも好奇心のほうが強かった。
目が段々と暗がりに慣れて来ると、少しは辺りを見渡すことができた。
雛は壁を手で伝いながら先へ進んで行く。
玄関から続いた短い廊下を進むと視界が開け、こじんまりとした部屋に出た。
右から微かに音が聞こえる。
近づいてみると引き戸があった。音はこの向こうからだ。
引き戸を少しだけ開け、そこから中を覗いてみる。
中には今いる部屋よりも小さい部屋があり、ベッドが置いてあった。そしてそのベッドに誰か寝ている。音の正体は多分この人の寝息だろう。
中に入り、ベッドまで近づくと顔がよく見えた。
なんだろう。よくわからないけど雰囲気というか、空気感?みたいなものが少しパパに似ている。
でも顔は全然違う。
凄く変な感じだった。
でもまあ、麗奈おばさんのような変人オーラは出ていないから、ひとまず安心できそうだ。
安心すると共に急に睡魔が襲って来る。
こうなると雛はもう寝るしか能がなくなる。
「んっしょ……と」
ほぼ無意識下でベッドにのぼり、布団の中に入る。
中では既に暖気が充満し、雛にとっては心地好い空間となっていた。
ゆっくりと目を閉じる。
雛はその日、父親と一緒に遊んでいた時の夢を見た。
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