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フライパンの上で炒飯が小気味良い音を立てながら踊っている。
慣れた手つきで手首を返すようにフライパンを操ると、宙に浮いた炒飯が弧を描いてまたフライパンの中へ収まった。
「おー」
脇から感嘆の声があがる。雛ちゃんだ。
いつの間にそこにいたのか、背伸びをしながら興味津々でフライパンを覗いていた。
「もう一回やってー」
雛ちゃんからのアンコールに応えるべく、俺はもう一度フライパンを返す。
炒飯はさっきより高い半円を描き、またフライパンへと戻った。
「もういっかあい」
「おうよ」
炒飯はもっと高く跳ね、フライパンへと吸い込まれる。
「わんもあー」
「あらよっと!」
炒飯は今までで一番高い軌道を描きそして――
ぼとっ。
「「あ……」」
おおよそ4分の3とも言える量の炒飯が、床にぶち撒けられていた。
しばらく唖然としていた俺達だが、やがて俺は雛ちゃんに向かって土下座の体制を取る。
額が床にめり込むんじゃないかと思う程に力をいれ、こう告げた。
「調子のって、すみませんでした……」
ぶち撒けてしまった炒飯(3/4)が敢え無く三角コーナーへ旅立ってしまった事は、言うまでもない。
数分後のリビング。
旗から見れば、滑稽きわまりない状況が繰り広げられていた。
テーブルを隔て、イスに座っている俺と雛ちゃんの前には、各々一枚の皿に炒飯が盛り付けられていた。
雛ちゃんの皿には、大人から見れば少ないがこのくらいの子が食べるには調子度いいだろうという程度の炒飯が。
そして俺の皿には、
「ごはん一粒……」
部外者が見れば、誰もが俺をかわいそうな目で見ることは間違いないだろう。
しかしこれは両者一致の采配によって決まった盛り付け量だ。
不満はない……こともない。
が、事情を話してもらえないわけにも行かず、結局こうするしかないのだ。
「ではー、手を合わせてください」
幼稚園や小学校の給食当番の定型文を雛ちゃんが口ずさむ。
それに合わせ、俺と雛ちゃんが両手の手のひらを胸の前であわせる。
「おあがりください」
「「いただきます」」
こうして、朝の奇妙な食事の時間が始まった。
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