1話

2/8
前へ
/15ページ
次へ
『またね…またいつか。』 君はそういった。またいつかって。そのいつかはいつくる? 「琢磨?おーい?聞いてるのか?」 『えっ?…あぁ。ごめん。』 慌て返事をした。 テラスから見る空は昨日の雨が嘘の様に晴れ渡っていた。テーブルの上には、まだ少し温かみのある珈琲が置いてある。カップから見える湯気は少し弱々しい。 「琢磨って、たまーにボーッとするよな?」 少し、笑いながら珈琲を飲んだ。 「忘れられない恋。」 『へ?』 「なんつってー。」 悪戯に笑ってこちらを見た。 それには、苦笑いを浮かべた。 『お前は…いっつも楽しそうだよな。』 「当たり前。人生楽しまなきゃ損だぞ?山寺静馬としての人生は1度しかないんだから!」 『人生一度きり。私としての人生はこれだけなの。だから、精一杯生きたい!』 「だから…。」 『琢磨も琢磨の人生を楽しまなくちゃね?』 「…楽しめよ!な?」 『……。わかってるよ。ヨシッ!そろそろ行こうぜ?』 「あぁ~。あのオフィスに戻らないといけないのかぁ…。徹夜になんないといんだけどな。」 静馬の愚痴を背中に聞きながら上着を羽織ながら店を後にした。 俺にとって、君の居ない人生はとても辛い。 君が好きだった桜が咲く春も。君の好きな花火大会がある夏も。食べ過ぎたといつも言っていた秋も。ギュッギュっという雪の音が好きといっていた冬も。君が居ないと…寂しいだけの一年。でも、そんなの仕事ばかりやっていると考えないですんだ。だけど、『琢磨の隣が一番落ち着く。』と言ってくれた君の笑顔と温もりだけは忘れられない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加