第0夜

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大の字になって、床に仰向けで寝転んだ。 畳の匂いをかきながら目を閉じると、以前は空想の物語が泉のように頭の中から湧き出てきた。 しかし、今、目を閉じてみると、ただ眠気が襲ってくるだけである。 飛べない豚はただの豚。 小説を書けない小説家はいったい何になるのだろう? フリーター? ニート? 文学界の巨匠、芥川龍之介も自らの限界を感じ取り、小説を書けない自分に見切りをつけて、僕と同じ名前の彼は自殺してしまったのかもしれない。 でも、僕には自殺なんてできない。 そもそも、自殺して他人に迷惑かける勇気も度胸もないのだけど、できない理由は彼女と約束したからである。 『あたしの分まで生きて』 それが彼女の遺言だった。 僕はそれにしっかりと頷いて、彼女と約束してしまったのである。 だから、僕はかろうじて生きている。目的を失ったまま、未だに新しい何かを見つけられずに生きている……。 寝返りをうって横向きに体勢を変えて、右側の本棚の方を見た。 僕の視線の先に、一冊の本が床に一人だけ仲間はずれにされたように置いてあった。 僕はその一冊の本をぼんやり見つめる。 その本の題名は『佳代』 その本は50万部以上売れ、映画化も決まり更に売り上げを伸ばしていて、僕を一躍売れっ子作家の仲間入りさせてくれた。 彼女がいなくなった直後にその本を執筆し始めて、その一年後に大衆小説として出版した。 それ以来、僕は物語を書いていなかった。
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