61829人が本棚に入れています
本棚に追加
/1100ページ
「直木賞……?」
僕はぼんやりとした口調で頼りなく聞き返した。
「そう直木賞だ」
吉田さんははっきりとした発音で確かにそう断言する。
直木賞とは、大衆文学界の中で、もっとも権威ある文学賞である。
この賞を受賞する事は小説家にとって、日本で一番名誉な事だといっても過言ではないだろう。
「夏目くんは今、目標を見失っているからいけないんだ。
もう君は売れっ子作家の仲間入りを果たした。
だったら次に目指すのは直木賞を受賞する事だろう」
「直木賞なんて今の僕には……」
そもそも小説のネタも思い付かないという状況なのに……。
「無理じゃない。君ならできる」
吉田さんは真剣な顔で僕に言い聞かせる。
どこまで、この人は僕の事を信じているんだ?
僕はたまらずビールをコップに溢れる程注いで、イッキ飲みした。
「夏目くん、約束してくれ。
いつか、必ず直木賞を取ると」
吉田さんは更に念を押してきた
長い沈黙が訪れる。
その間、吉田さんは真っ直ぐな視線の圧を受け続けた。
「そうですね........」
根負けしたのは僕だった。
最初のコメントを投稿しよう!