第1夜

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「直木賞……?」 僕はぼんやりとした口調で頼りなく聞き返した。 「そう直木賞だ」 吉田さんははっきりとした発音で確かにそう断言する。 直木賞とは、大衆文学界の中で、もっとも権威ある文学賞である。 この賞を受賞する事は小説家にとって、日本で一番名誉な事だといっても過言ではないだろう。 「夏目くんは今、目標を見失っているからいけないんだ。 もう君は売れっ子作家の仲間入りを果たした。 だったら次に目指すのは直木賞を受賞する事だろう」 「直木賞なんて今の僕には……」 そもそも小説のネタも思い付かないという状況なのに……。 「無理じゃない。君ならできる」 吉田さんは真剣な顔で僕に言い聞かせる。 どこまで、この人は僕の事を信じているんだ? 僕はたまらずビールをコップに溢れる程注いで、イッキ飲みした。 「夏目くん、約束してくれ。 いつか、必ず直木賞を取ると」 吉田さんは更に念を押してきた 長い沈黙が訪れる。 その間、吉田さんは真っ直ぐな視線の圧を受け続けた。 「そうですね........」 根負けしたのは僕だった。
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