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「帰って下さい。あとは自分で考えますから」
僕の冷淡な物言いに藤井さんは驚いたように目を丸くする。
「夏目先生……」とすがるように彼女は僕を見つめた。
「お引き取り下さい。仕事の邪魔です」
僕はあくまで彼女を突き放した。
彼女は諦めたように目を伏せる。
無言のまま小さくお辞儀をして、静かに立ち上がった。
「失礼します」
彼女は凛とした口調で僕に挨拶し、背筋を伸ばした綺麗な歩き方で部屋を出て行く。
僕は見送ろうとは思わなかった。
そのまま椅子に深く腰掛けて、考え事をしていた。
物寂しい雰囲気だけが残った部屋でしばらく僕はそうしていた。
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