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米澤幸多郎……。
僕はその名前を知っていた。
彼の書いた著作を学生の頃、何度も僕は読んでいた。
90年代の日本の小説界を常にトップで支えてきた重鎮だった。
そんな人があんなエロ爺だったとは世の中は分からない物だ。
僕はしばらくの間、考え事をしながらその場に立ち尽くしていた。
「龍ちゃん?」
絵理に声を掛けられて、やっと我に返る。
「なんで怒ってるの?」と絵理は僕の顔を不思議そうに覗き込みながら訊ねてきた。
「怒ってないよ」
「その声は怒ってる声だよ」
絵理に指摘されて、思わずムッとした顔をしてしまう。
その顔を見られないように僕は絵理に背中を向けた。
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