ビー玉

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雨がまたつよくなった… あたりまえのように 誰もいない公園… 私には この雨を凌ぐすべが ない… つよくなった雨は 痛いほどに 私を突き刺さす… いったい私は なにをしているんだろう どこに むかっているんだろう… 方向を見失った私は ただ呆然と 立ち尽くす… 髪から滴った雫は 衣服を摺り抜け 私のココロの奥底に おおきな水溜まりを 作りだした… おもく 澱んだ 水溜まり… それが 泉であってほしい希望すら いまは ない… ふと目の端に 小さな光が映る… 雨にうたれて 土の中から顔を出した ビー玉… ひろいあげて 灰色の雨雲に 透かした… 付着した泥が あらい流されて 透明になっていく… どこまでも清んだ透明に なっていく… どこからか 笑い声が響いた… 嘲笑? 失笑? 違う… 無邪気に遊ぶ 無垢な子供の 笑い声… ビー玉の奥に どこかで見た なつかしい景色が あらわれた… スライドのように 小刻みに でもそのひとつひとつは 確かに私のくすんだ心から 痛みを取り去っていく… 私は 濡れた土の上に座り込み 大声で 泣いた… 涙と一緒に ココロの奥底の澱んだ水も 溢れ出した… 涸れるほど泣いて 私はまた ビー玉を透かしてみた… “おかえり” 子供の頃の私が やさしく 微笑んだ… “ただいま” 私は ビー玉をポケットに仕舞い 忘れかけていた はるか遠くの 明日に踏み出す…
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