Prologue.Ⅰ

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さらに一撃も掠らないことに焦る思考を落ち着けようと距離をおけば、わざとらしく挑発するような言葉を発する。 「なんじゃもう終いかの?」 何度目かのそれに目を細めた俺は、あることを思いつき再び向かっていく。 そして男が躱す動きを利用してビルの壁へと追い立てた。 「とっとと、出ていってもらおうじゃねーか」 はっとする男にそう言って拳を振り上げた。 しかしそのまま俺は動きを止める。 「ほぅ。力任せだけではなく、よい勘も持っとるようじゃの」 「はっ、仕込み杖かよ……」 なぜならその刹那、目の前の男の気配が一変したことに頭が警鐘を鳴らしたからだ。 そこへ雲で隠れていた月が姿を現したのか、木の葉の隙間から光が差し込む。 月明かりが照らしたのは、今までに見たことないくらいの鋭い眼差しで見上げる老人と、俺の喉元に向けられた細身の剣。 男が浮かべる笑みと煌めく刃を見て、ただ者じゃないと認めて呟いた。
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