Prologue.Ⅰ

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ここまできてそれはねーよ。 ジイさんの言葉に、頭の隅に追いやったはずの不安や疑惑が広がる。 けど、一晩悩んだ。 それ以上悩むのは性に合わない。 「今更だな、ジイさん。ここへ来た時点で決めたんだ」 それに変われるチャンスならば掴むしかない。 だからその不安を吐き出すように俺がそう答えれば、ジイさんはふっと表情をもとの笑顔に戻す。 「で、あとなんて呼べばいいんだ?」 「好きに呼べばよい。皆はこの店の店主という意味でマスターと呼んどる」 にこやかなジイさんの様子にほっと胸をなでおろし、いい加減名前を聞き出そうとしたが、さらりと流されてしまった。 あくまで明かすつもりがないのに、俺はこの先もジイさんと呼ぼうと決める。 こうしてよくわからないままに俺は、怪盗という仕事に足を突っ込んでしまったのだ。
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