268人が本棚に入れています
本棚に追加
ここまできてそれはねーよ。
ジイさんの言葉に、頭の隅に追いやったはずの不安や疑惑が広がる。
けど、一晩悩んだ。
それ以上悩むのは性に合わない。
「今更だな、ジイさん。ここへ来た時点で決めたんだ」
それに変われるチャンスならば掴むしかない。
だからその不安を吐き出すように俺がそう答えれば、ジイさんはふっと表情をもとの笑顔に戻す。
「で、あとなんて呼べばいいんだ?」
「好きに呼べばよい。皆はこの店の店主という意味でマスターと呼んどる」
にこやかなジイさんの様子にほっと胸をなでおろし、いい加減名前を聞き出そうとしたが、さらりと流されてしまった。
あくまで明かすつもりがないのに、俺はこの先もジイさんと呼ぼうと決める。
こうしてよくわからないままに俺は、怪盗という仕事に足を突っ込んでしまったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!