Prologue.Ⅰ

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夜だというのに相変わらず騒々しいスラム街の表通りを駆ける。 ちらりと後ろを見れば、すこし離れたところで俺が避けてきた人波に行く手を阻まれた警官がなにやら叫んでいた。 通りに響く音で聞き取れないが、待てと言ってるらしいそいつらににやりと笑って小路から裏通りに抜ける。 さらに建物の隙間に身を潜めたところでようやく一息ついた。 手元には形も大きさも異なる数個の財布。 もちろん俺のではなく、先ほど道すがら人から掏ったものだ。 犯罪なのは百も承知。 だけどここじゃ当たり前の話だ。 この辺りは俺のような手癖の悪い不良どもや、それらを相手に法外な商売をする輩が住む、およそ真っ当とはかけ離れた区画である。 騙し騙され、奪い奪われを繰り返し、人様から金を盗ってはのその日暮らし。 中には似たような身の上な者同士集まって大事を起こして派手に生きる人間もいるが、基本的に一人っきりで俺はここで生きている。 一人が好き、というわけでない。 一応それなりに交流は持っているが、なんとなく気が進まないだけだ。
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