Prologue.Ⅰ

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先ほどからこちらを伺う視線が金を引っ張り出した瞬間強まったからだ。 見当はつく。 だが手を出してこない以上ここは無視すべきなのだが。 わかっていても俺はそれができる程悪人なはなりきれていなくて。 ちらっと目を向ければ、建物の角で小さな影が動く。 ああ、やっぱりな。 予想通りここへ流れ、住み着いた孤児達だ。 この国は、街は決してきれいな話ばかりじゃない。 落ち着いたとはいえ、俺が生まれる以前までの軍事的な衝突が今でも尾を引き、今は今でマフィア同士の潰し合いや社会を追われたりと帰る場所を失った者は多い。 また自分を守るためと誰かを見放す人間も居る世の中だ。 それは大人も子供も関係なくて。 俺自身もそれに当てはまる一人だし、その建物の向こうにいるガキと同じ頃にはスラム街を渡り歩いていた。 なにはともあれ俺は黙ってガキの出方を待つ。 生きるにはこの金は欲しいのだろう、しかし刃向かう勇気はないようで壁を掴んでいる小さな手が震えているのが見える。
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