姫の想い竜の想い

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怒りたいわけじゃない。 悲しませたいわけじゃない。 ボロボロと零れる涙を掬いとりたいのに、震える体を抱き締めたいのに……ああ……腕が持ち上がらない。 伏した体からは未だどくどくと赤黒い血が流れ出、流れ出る度に力は抜け落ちていく。 もう首を持ち上げているのさえも辛いが、だが一秒でも愛おしい姿を目に焼き付けておきたいから。 そして、これだけは忘れないでほしい。 「俺はいつまでも……生きてる……。死ぬわけじゃない。ただ……生きる場所がぁ……変わる、だけだぁ」 「どこで……どこで生きるのよ?」 前に言ったではないか。 ラズリアの墓の前で、言ったではないか。 ナーヅァは弱々しく鼻先をリシュカの胸に擦りつけた。 「心の中で、生きている」 ハッとした。 そうだ。 彼は前に言っていたではないか。
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