姫の想い竜の想い

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彼が笑顔を見たいと願った時、うまく笑えていただろうか? 彼は笑顔を望んでいたけど、今は……今は悲しみに浸ってもいいかな? 彼は友であり支えであり、愛おしい存在。 これから先、彼を決して忘れはしないし、彼は常に傍にいてくれる。 でもね? もう抱き締めることも触れられることも叶わないから、今だけは……泣かせて……。 沢山涙を流して涙に濡れて 徐々に冷たくなりゆく白い体を離すまいと抱き締め続けて 涙が枯れても喉が嗄れても 心にぽっかりと空いた穴から次から次にと悲しみは溢れ出し 感情に抗うことなく 泣いた 泣き続けた。 誰かが背中を撫でて抱き締めてくれた気がするけど 頭も心も彼でいっぱいで 彼しかいなかった。 沢山沢山 声をあげて涙を流して 泣き叫んでいた時 歌を、聴いた。 ううん。 彼の声だという風が 歌を、奏でた……。  
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