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『過去』
「なんで、そんな問題もわからない?」
男が怒鳴り声をあげ、思い切り机を叩いた。
「すみません……」
僕は黙って拳を膝の上で握り締める。
「キミは、この麻生家を継ぐんだろ?」
男が机に向かう僕に顔を近づけてくる。
「イタッ──」
僕は一瞬うめき声を漏らすと、すぐに歯を食いしばり、声を押し殺した。そうしなければ、さらに何かをされるから。男がコンパスの針で少年の手の甲を刺したのだ。手の甲に刺さったコンパスの針先から赤々とした血がゆっくりとあふれ出てくる。
勉強しなさい。勉強しなさい。勉強しなさい。大人はこれしか口にしない。なんで、勉強しなければいけないの?
男が思い切り椅子を蹴飛ばした。その衝撃で僕は椅子から転げ落ちた。
「一度やった問題を忘れるな。わかったら、さっさと机に向かえ」
僕は涙を堪え、椅子を直し、ビクビクしながら机に向かった。これ小学生の頃の話。
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