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「もう、何なんだよぉ…!?」
「今の内に触っとこうと思って。こんなの序の口だろ」
「はあ?」
「俺が辛抱強い男で良かったな」
「それってどういう…」
「感謝しろよ」
耳元で囁かれた旭の言葉の意味を考えていると、全体ミーティングのための集合が掛けられあっさりと俺を解放した旭はさっさと行ってしまう。
その背を追いかけながら思った。どの道全体ミーティングで流れ確認するんだから、わざわざ俺が説明する必要なかったんじゃ…!
「卯月!何か怖い顔してるから!笑顔、笑顔!」
笑顔を保てる自信が無い。素知らぬ顔で説明を受けている旭を恨みがましく睨んでみるが、奴は気が付かない。
…そう言えば、俺は旭に返事をしていない。そもそも奴が返事を求めているのかすら分からない。想いを告げられただけなのだ。しかし一般的に考えて告白は流していいものではないだろう。恋愛経験の無い俺にだってそんなことぐらいは分かる。
…まあ、どちらにせよ今答えを出すのは無理な話なんだけれども。
「よし!それじゃー開店します!皆今日も一日頑張ってこー!」
「「「オー!!」」」
朝一から声を揃えて気合いを入れる面々。正直このクラスにこんなに団結力があるなんて思ってなかったよ…。
各々が持ち場につくと早速客が数名ご来店。どうやら時間前から待っていたらしい。たかが学祭の催し物に随分と熱心だなぁ…。
確かにウチのたこ焼きは見た目も味も申し分なく、好きなトッピングを選べる上にリーズブルな値段だと昨日一日で結構評判にはなっていたけれども。まぁ旭の作ったレシピだし、病みつきになるのも当然か。
なんて納得しながら旭が動いたのを確認して、俺もその後に続く。
「いらっしゃいませ」
「うわ、メイドさんだ!昨日制服だったのに何で!?スゲー可愛い!」
「ラッキー!君の顔が見たくて今日も来ちゃったけど、来て正解だったな!」
お、おう…。
全く見覚えのない男二人がこぞって好意を露わに話し掛けてくる。旭の声は無視だ。
つーか女装男の顔見に来たとか馬鹿なの?そもそもクラスの連中の策略通り、俺が男であることにまだ気が付いていないのか。哀れだ…。
哀れみの眼差しで見つめていると何を勘違いしたのか顔を赤くする男。旭が適当にあしらいながら注文を聞き取ったことでその場を離脱することができた。
何でもソツなくこなす旭を改めて尊敬した瞬間だった。
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