詰らん意地は蛇の足。

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ただひたすら、がむしゃらに走った。 午後の授業の予冷が鳴った頃には、気付けば普段はあまり寄り付かない北校舎まで来てしまっていた。 乱れた呼吸を整えながら、目を瞑る。 今から授業を受けに教室へ向かう気も起きなくて、近くにあった音楽室へ入ると直ぐ入口に座り込んだ。 久々に自主的にサボってしまった。 心配させちゃうかなー、いや俺のことなんか心配するやついないか。はは。 ……いつになく卑屈な自分に嫌気が差す。 だらんと肢体を投げ出し向かいの窓から青く澄んだ空を眺めた。 「俺ってこんなキャラだっけ?」 「意外と不意打ちには弱いよ」 独り言に返事があるとは思わなくて少し驚いて声の発信源を見上げれば、そこには案の定相も変わらず神出鬼没な幼馴染の姿があった。俺は自分の事を棚に上げて呆れ気味に溜息を吐く。 「喜一、お前また授業…」 「ミコちゃんも人の事言えないと思うけどな~?お互い様でしょ」 「……意外とってなんだよ」 「飄々としているように見えて、結構隙がある。……こんな人気の無い場所に来てどういうつもり?ちゃんと今の自分の状況、分かってるの?」 俺の目の前まで移動してきた喜一はそこにしゃがみ、ジッと俺の顔を見詰める。 何処か責めるようなその口調は、心なしか普段より硬質な響きを持っていて思わず身を固くした。 喜一が差すのは生徒会親衛隊の動きについてだろう。恐らく陰湿なイジメはそろそろエスカレートしてくる頃合いだ。 「大丈夫。迷惑は掛けないから」 「……」 心配するなという意を込めて笑い掛けた。 すると喜一は暫く無表情のまま無言で俺の顔を見続けていたが、静かに目を瞑ると何かを諦めたような、呆れたような溜息を一つ吐き出してからいつものように緩く笑った。 そして、言うのだ。 「俺は、いつでもミコちゃんの味方だからね」 幼い頃から、幾度と無く言われ続けてきた言葉。 その喜一の言葉は不思議な程、甘く甘く脳に溶け込んでいく。 実際に俺に対してとてつもなく甘い幼馴染に、無条件の安心感を得る。 その証拠に、先程までの胸に残る嫌な感覚は少しだけ薄れていた。 やはり何だかんだ言って幼馴染の傍はいいもんだ、なんて。 …本人には絶対言ってやんないけど。
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